京都にある、任天堂の旧本社社屋。建造から90年近くが経つこの建物が、4月1日にホテル「丸福樓」としてオープンします。アール・デコ全盛期のデザインがギッチギチに詰まったこのレトロなホテルの、マスコミ向け内覧会に行ってきました。
1889年、山内房次郎はかるたや花札の製造販売を手がける会社として「山内房次郎商店」を創業。1947年には屋号を変更し、現在の任天堂の前身である「丸福株式会社」を設立しました。さらに1950年には「任天堂かるた株式会社」に商号を変更。丸福樓が立つのは、この山内家が商売を始めた京都の鍵屋町です。ちょうど高瀬川と鴨川の間あたりの立地で、最寄駅は京阪電車の七条駅ですが、京都駅からも歩いてアクセスできる距離です。
この丸福樓を開業・運営するのは東京を拠点とするホテルマネジメント会社のPlan・Do・See。なので、現在の任天堂が運営しているホテルではありません。しかし丸福樓の建物は1930年代から1950年代にかけて実際に任天堂の本社社屋や倉庫だったもので、また当時3棟あった建物のうち中央の1棟は山内家の住居として長く使われていました。ホテルとして開業するにあたり、1棟目と2棟目の間に安藤忠雄設計の新棟を建設。任天堂の看板商品だったトランプにちなみ、入り口側から順に「スペード」「ダイヤ」「ハート」「クラブ」の4つの建物名がつけられています。
メインエントランスがある「スペード」棟は、任天堂の本社事務所があった建物。事務所らしく、入ってすぐに受付だったであろうスペース(現在はレセプションルームとして利用)があります。とにかく入口付近からモダンな雰囲気が濃厚。壁や柱に貼られたタイルや照明器具は当時のままとなっており、また社員の出退勤を管理していた時計もそのまま置かれています。
このエントランスの脇がラウンジになっているんですが、そこにはなにやら精巧な丸福樓の模型が……。と思って近づいて見たら、なんとレゴでできとる。よくまあこんな色味と形がドンピシャのパーツがあるもんだと感心していたんですが、これは日本人唯一のレゴ認定プロビルダーである三井淳平さんの作品なんだそうです。そりゃうまいわけですわ……。
この「スペード」棟の2階には、山内家の資産を背景に活動するYamauchi-No.10 Family Officeが企画したライブラリーdNaが設置されています。このライブラリーには任天堂の理念が表現されており、山内家宛ての手紙やRhizomatiks制作の花札を題材にした映像作品、山内溥氏が飾っていた片目の達磨に着想を得た達磨、美術作家の小坂学氏が制作したケント紙製のファミリーコンピュータなどを陳列。
さらにライブラリーの出入り口には作品内に潜り込めるインタラクティブアートや、隣室にはバーも用意。宿泊者による利用のほか、将来的にはこのライブラリーを利用したイベントなども開催する予定とのこと。天井が鏡になっている部屋なので、夜間に入ると展示物や棚の光が反射してすごいことになるようです。
「スペード」棟の隣が、安藤忠雄氏設計による「ダイヤ」棟。こちらは打って変わってコンクリート打ちっ放しの現代的な建物。また、他の3棟にはエレベーターがない(昔の建物なので……)のですが、この「ダイヤ」棟にはエレベーターがあります。
今回の内覧会で見せてもらえたのは、3階にあるレジデンシャルスイート。東側の壁は全面的に窓になっており、鴨川方向が一望できます。また、室内にはミニキッチン、そして安藤忠雄建築の象徴でもあるコンクリート打ちっ放しの柱も完備。床面積が74平方メートルあるとのことで、とにかく広いのが印象的でした。
「ダイヤ」棟の隣にあるのが、山内家の住宅だった「ハート」棟。こちらはエントランスの脇に昭和6年(1931年)に行われた上棟式の棟札と、改築前に貼られていたウィリアム・モリスのデザインした壁紙の一部が展示されています。しかし、昭和初頭にわざわざそんな壁紙を貼った家を建てていたとは。山内家って本当にモダンな家に住んでたんですね……。
この「ハート」棟にはこのホテル唯一の和室がある、ジャパニーズスイートが用意されています。この部屋は和室と洋室の間に露天風呂(!)も完備。「マジでここに任天堂の創業家が住んでたのね……」という実感を味わいつつ和風の風呂に入るという、絶対に他のホテルでは不可能な体験を味わえます。
「ハート」棟の上階は洋室になっているのですが、これらの部屋も全て山内家の住宅だった部屋を改装したもの。作り付けの暖炉(残念ながら現在は使用不可です)に貼られたカラフルなタイルや、室内に見られる幾何学的な装飾などはすべて建築当時のものだそう。とにかくどの部分もぜいたくかつモダンな作りになっており、これが戦前の個人邸なんだからすっげえよな……とため息をつくくらいしかできません。事務所棟の実用的な雰囲気とは明らかに作りが違うので、ある意味一番ぜいたくな雰囲気が漂っているのはこの棟かも。
●バルコニー付きの部屋が魅力の「クラブ」棟
4つめの「クラブ」棟は、もともと任天堂の倉庫だった建物。1階には宿泊客向けのレストラン(なので、レストランのみの利用は現在のところ不可能です)である「carta.」が入っており、2階から上が客室となっています。「任天堂の倉庫」と言われて想像する建物としてはちょっと小さい気がしたんですが、そもそもこの建物で仕事をしていた当時の任天堂の売り物って花札とかだから、多分商品自体がそんなに大きくないんですよね。なるほど、だからこのくらいの倉庫でも機能してたし、荷物を運ぶためのエレベーターが妙に小さいのね……と勝手に納得。
この棟の3階に用意されているのが、バルコニースイート。倉庫棟についていたバルコニーをそのまま利用した客室で、東山を一望できる見晴らしの良さが魅力です。室内にあるソファや扉は、もともと倉庫にあったものをそのまま利用。往時の任天堂で使われていた調度品を、宿泊すればそのまま使うことができます。
●このホテルに泊まるためだけに京都行くのもアリ
以上のように、4棟それぞれに異なる持ち味のある丸福樓。なんせ建物が古いので、現代的なホテルの快適さとはちょっと趣の異なる部分もあります。特に新築棟以外はエレベーターがなく、昔の建物特有の幅が狭めで急な階段のみで上下の移動をしなくてはならないのは、微妙にしんどいところがあるかも。
が、それをわかった上でも、このホテルに泊まるのはバリューのある体験なのかも……と思ったのも事実。なんせこれだけぜいたくな昭和初期の建物の中に入ること自体が珍しく、しかもそこに宿泊できるというのは相当貴重な体験です。実用的な雰囲気の漂う「スペード」棟や「クラブ」棟、そして当時のモダンなデザインがパンパンに詰め込まれている「ハート」棟と、建物によって味付けがかなり違うので、そのあたりをじっくり見られるのは眼福。いたるところに凝ったデザインが詰め込まれたディテールを観察するもよし、レトロな雰囲気に浸るもよし、泊まる人によっていくらでも楽しめる部分があるな……と思った次第です。京都なので周囲は観光地だらけですが、とにかく見所が多いので「このホテルに泊まる」という目的のためだけに訪れる価値があります。
運営が任天堂ではないので「おなじみのキャラクターが大集合!」みたいな要素もないですし、ゲーム関係の展示も控えめですが、任天堂創業家の建物なのは間違いなし。そこに泊まれるというのは、ゲームファン的にもアツいはず。どの部屋も一泊10万越えなので、正直お安くはない。ですが、一度泊まれば「任天堂の本社に泊まったんだぜ~」と一生自慢できますし、何かのタイミングで泊まってみるのもかなりアリだな……というホテルでありました。
(出典 news.nicovideo.jp)
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